ガネーシャ様について

 2005年秋から2009年初夏まで、僕はクリスチャンだった。

 僕がいた教会はペンテコステ派、あるいは聖霊派と呼ばれる霊的にバリバリの武闘派で、聖書を丸ごと信じて疑わないまこと清々しい教会だった。

 と、いうわけで偶像崇拝は御法度、固く固く禁じられていた。

 中には洗礼を受ける前に仏壇・神棚を捨てたとか、いつかチベットに潜入して修行をし、解脱を果たそうとしていた女性が、集めていた高価な密教の法具や神像を泣く泣く捨てた、という話まで聞いた(何を隠そう僕の奥さんである)。

 僕もラピスラズリの勾玉がたくさんついたアクセサリーとThe DoorsのCDを捨てた。

 自分で言うのもなんだけど、僕は熱心と言ってもいいクリスチャンだったと思う。あらゆる偶像と偶像的な存在を退けた。父親が死んで出棺する時も、手を合わせたら父親の遺体が偶像になってしまうからと、合掌もしなければ頭も下げないほどだった(今考えたらひどい話だなあ、まるで宗教的テロリストだ)。

 その頃のキリスト教原理主義者である僕が、今の僕を見たら卒倒するに違いない。

 だって毎朝ガネーシャの神像に「ガネーシャ様〜〜、朝のコーヒーですよ〜〜、召し上が〜〜れ〜〜」とお供えしてるのだから。

 ここでは過去の自分がなぜキリストを信じるに至ったか、そしてなぜかくも熱心だったにもかかわらず、抜け忍よろしく教会を去ったのかは語らない。

 問題は、クリスチャンをやめた後の僕の心情、そして世界観はどうなったのか、ということだ。

 まあ、結論を言えば、元のアニミズム・精霊信仰に戻ったのだ。そう、クリスチャンになる前は「アイヌ最高〜〜インディアン最高〜〜大自然が祭壇だよ〜〜」と呑気に暮らしていたのだ。

 精霊から聖霊へ、そしてまた精霊に還る。なんてね。

 さて、キリスト教の洗脳から解放されるのに、仏教がおおいに役に立った、という話も割愛する。

 でもその後の僕が「仏教が大好きな精霊信仰者」としてわりと平和に過ごしてきたことは確かだ。宗教的には何にも属さず、仏壇も神棚もなく、無神論ではないが具体的な神を持たなかった。

 キリスト教を抜けて僕が辿りついた結論。

 それは「宗教は文化」だ、ということだった。

 宗教はけして真理とはイコールではない。では宗教に存在意義はないのか?

 ある。しかしそれは文化として。

 逆を言えば、「文化は宗教」なのだ。文化になりきっていない宗教は、むしろ危険ですらある。

 宗教は長い時間をかけて人々に世界観を浸透させ、生活に彩りを与え、共同体を安定させてきた。

 まったく宗教を持たない人々と、なんらかの宗教を持つ人々、どちらが幸せだろうか?

 もちろんその答えは人それぞれだろうが、僕は後者のタイプだった。

 でも、文化的と呼べる宗教を僕は持たなかった。

「寂しいなあ〜〜、文化的にぃ〜〜」という心境だったのだ。

 あ、だから「世界ニャーニャー教」を創ったのか。そうか、なんだそうだったのか。

 しかし「世界ニャーニャー教」は残念ながら、文化を育むには圧倒的に時間と人的資源が不足している。まこと残念・無念である。

 さて、そんなこんなで、去年のこと。

 僕は20年ぶりくらいにスープカレー店・マジックスパイスに足しげく通うようになった。マジックスパイス(以下マジスパ)の正面の壁には、ガネーシャの顔の像が、つまり象の像がどぉーーーんと貼りつけられている(はっきり言って、怪しい。かなり怪しい)。店の中は大小さまざまなガネーシャ像があちこちに鎮座ましましている。

 しかし、よくマジスパに行く客としてはそんなものは日常のあたりまえの風景。そのぐらいではガネーシャ信者にはならない。

 そこでまたヨガシャラのたかさんの登場である。

 いつのまにか僕は、たかさんのYouTubeを見ることが習慣になっていた。

 そしてガネーシャ聖誕祭を前に、たかさんはガネーシャガネーシャマントラを紹介する動画をぶつけてきたのだ(内容は割愛するが、大変面白い動画です)。

 ガネーシャ信者になったのは、その時ではなかろうか。

 動画のたかさんに合わせておずおずとガネーシャマントラを唱えた、あの時。

 オーン ガーン ガナパタイェー ナマハ。

 これだ、と思ったね。文化的な宗教としてはこの神様は僕にぴったりじゃないか。

 顔が象だし、可愛いし、怖くないし。

 それでマジスパのように豊かになれるのなら、言うことないじゃないか。

 そう確信した僕は、マジスパガネーシャ像を買い、自分を「世界ニャーニャー教開祖にしてガネーシャ信者」と位置づけたのです。

 今じゃ家中ガネーシャだらけになりつつある。

 どうも、偶像というものは、増殖する傾向にあるらしい。

 それで、ご利益はあるのか?

 う〜〜ん、僕としては「ある」としか言えない。

 だって、なんか楽しいんだよね。

 オーン ガーン ガナパタイェー ナマハ。